弁理士試験は年に1回実施され、受験回数に制限はありません。
試験の内容としては、短答式試験、論文式試験、口述式試験の3つが実施されます。
短答式試験は5月中旬、論文式試験は必須科目が7月上旬、選択科目が7月下旬、口述式試験は10月下旬に実施されます。
短答式試験の合格者だけが論文式試験を受験することができ、論文式試験の合格者だけが口述式試験を受験することができる仕組みで、最終的な合格率は10%程度と非常に難易度の高い試験となっています。
この記事の目次
勉強の進め方
落ちる人:最初から細かく完璧にやろうとする
落ちる人は、最初から全てを完璧に理解しようとします。
わからないことがあれば立ち止まり、理解できるまで次に進もうとしません。
それに対して、受かる人は最初から全てを完璧にするのではなく、まずは大きな枠組みを理解し、その後、受験生の傾向や、自分の得意・不得意に応じて情報に濃淡をつけ優先度を判断します。
「何度も戻ってやり直したくない」「わからない状態で進むのがモヤモヤする」等から、最初から細かくやりたくなる気持ちはよくわかりますが、これにはよくない点が2つあります。
「人間の記憶構造に合っていない」と「全体像の把握の欠如」です。
人間の記憶構造に合っていない点について
人間の記憶メカニズムには、情報を一時的に保持する短期記憶と永続的に保持可能な長期記憶の2つがあります。
情報が何度も復唱される中で情報は長期記憶へ転送され、永続的に貯蔵されます。
従って、一から完璧を目指し出戻りを少なくしようとする勉強法は、長期記憶の仕組みからすると誤っているのです。
また、脳は詳細から入るより大枠を記憶・理解しながら、細かいことを記憶・理解していく方法のほうが相性が良いと言われます。
全体像の把握の欠如について
誰でも、科目や分野によって得意なところ、苦手なところが出てきます。
これらは全体像を把握して、比較をすることでわかってきます。
従って、一から細かくやっていては全体像が把握できず、本来自分がやるべき内容に時間が避けず、必要以上に得意分野に時間をかけたりと全体の観点から非効率な勉強法になってしまう可能性があります。
これらは、理解していてもいざ勉強を始めるとついついやってしまいがちなことです。
定期的に、完璧主義に陥っていないか確認しましょう。
勉強スケジュールの立て方
落ちる人:足元から積み上げてゴールを目指す
試験勉強のゴールは、合格することです。
では、合格するためにはまず何をすればいいでしょうか? それは、①試験日と②勉強する量を把握することです。
この2つを把握することなくして、計画は立てられませんし合格もできません。
なぜなら、言うまでもなく、合格するためには試験日までに試験問題を解けるようになる必要があるからです。
では、具体的にやるべきことを下記で説明します。
自分が勉強に使える時間がどれだけあるのかを常に意識する
試験日までの期間が1ヵ月や2ヵ月程度であれば、どのくらいのペースで勉強をすれば間に合うのかイメージがしやすいと思います。
ただ、弁理士試験のような難関試験になると勉強期間が1年以上になり、必要な勉強量も多いためイメージをしても実感を持ちにくくなります。
そのため、とりあえず手元にある教材をもとに空いた時間に勉強をする、という行動をとる人がでてきます。
しかし、この方法ではプレッシャーが全くないため「明日やればいいか」と先送りしたり、覚えようという意識に欠けるため、結局本番までに間に合わないという結果になってしまいます。
そこで、まずは試験日までに自分が確保できる総勉強時間を算出します。
ここでの注意点は、意識をしないと多めの見積になってしまうので、仕事の繁忙期を加味したりトラブルによって割かれてしまう時間もある程度バッファーとして見積もっておくことです。
また、勉強を開始すると様々な要因により計画から遅れることがしばしばありますので、勉強開始後においても確保可能な総時間の把握は意識的にしておく必要があります。
試験日までにやらなければいけないことを明確化する
合格するためには、あくまで試験問題が解ければよいので試験範囲全てについて完璧に知っておく必要はありません。
むしろ、限られた時間の中で膨大な量を勉強する必要があるので、合格に必要なことを取捨選択する必要があります。
こちらについては、予備校を利用するメリットの1つとも関連します。
つまり、予備校は与えられた試験範囲の中から、過去問の傾向を踏まえ「試験に合格するための必要量」を洗い出すことを行っているのです。
予備校を利用する方は、この作業が不要になりますので、自分に残された時間を把握してペースを配分することに集中できます。
独学で合格を目指す方はこの作業が必要になりますので、勉強時間以外にも時間を確保する必要があります。
予備校の利用を前提とすると、難しい点は復習の時間をどれだけ確保するかという点です。
これは、人により必要量が異なるため自分自身で勉強を進めていく中で把握しなければなりません。
1つの目安として、脳科学的にはインプット1に対してアウトプット3のバランスがよいとされています。
やるべきことを残り時間で配分し消化する
試験日までにやらなければならないことと、自分が使える時間が把握できたら、後は配分と調整を行いながらしっかりと消化をしていくのみです。
こう考えると合格するためにやるべきことは非常にシンプルに思えます。しかし、多くの方が最後までやり通すことができません。
例えば、計画を作って勉強した気分になってしまう、計画から遅れてしまった場合に調整し直している時間がもったいないと放棄してしまう、計画からの乖離が頻繁に起こり計画する意義を見失ってしまう、といった理由が考えられます。
もし、皆さんも勉強をしていく中で上記のような考えに陥ってしまった場合には、合格するために必要なことを思い出してください。
「試験日までに、試験問題を解けるようになる」
過去問の使い方
落ちる人:過去問 = 実力試しの演習問題
「過去問をやったほうがよい」
受験勉強において、この言葉はよく使われます。
しかし、過去問を解く意味について考えたことはありますか?
「過去問は実践に近いから自分の力がついたら実力試しにやろう」
と考えて過去問をなかなか解かなかったり、
「どうせ同じ問題は出ないのだから過去問をやってもしょうがない」
と過去問を軽視する人がいます。
残念ながら、このような方は合格することは難しいでしょう。
なぜなら、過去問は出題者の意図の表れということが理解できていないからです。
そもそも過去問は、以前に本試験で出題された問題であり、出題者がどのような点をどのような聞き方で問うのか、どれくらいの頻度で問うのか、など試験にまつわる情報の宝庫なのです。
下記では、具体的に過去問を解く2つのメリットをご説明します。
アウトプットを意識したインプットにより効率アップ
過去問を分析することで、自分が覚えた知識がどのように問われるかがわかります。
これにより、単にテキストを読み込むのではなく、アウトプットを意識したインプットが可能になります。
例えば、読書をする際にも人に説明をする前提で読む時のほうが、よりアウトプットを意識した読み方をすると思います。
結果、単にインプットをして後から説明のために再度読み返すという無駄が省けます。
この考え方と基本的に同じです。
そもそも試験に受かるためには、問題が解けなければならないのです。
試験官に口頭で説明するチャンスはありません。
仮に、解答をみて「これなら知っていた」ということは通用しないのです。
勉強の優先度付けと自分なりの工夫
弁理士試験の範囲自体に大きな変化はないので、当然繰り返し出題される分野が出てきます。
何度も出題されるということは、それだけその分野が重要であるということを教えてくれています。
過去問の量をこなすことでそれぞれの出題頻度を知ることができ、それは勉強の強弱につながります。
稀に出題されるが合否に大きく影響しないニッチな分野を見極め、よく出題される分野をまず押さえることで効率的な勉強が可能となります。
もちろん、各予備校は過去問を分析したうえで必要な範囲の絞り込み、優先度付けを行っていますが、受講生であれば同じ条件になりますからそこはプラスαとはなりえません。
合格率が10%を切る難関試験であるということや、限られた時間の中での受験勉強になることを踏まえると、短期で合格するためには自分なりのプラスαの工夫が必要なのです。
教材の使い方
落ちる人:あれこれ手を出し全てが中途半端に
試験勉強の成果がなかなか出ない時や、勉強に少し飽きてきた時に陥りやすい罠があります。
それは、「教材を変える」ことです。
「あの合格者がこれを使った方がいいと言っていた」
「こっちの教材のほうがいいことが書いてあるかもしれない」
理由は様々あると思いますが、その根底には漠然とした不安を解消したい、という動機も大きいかと思います。
しかし、教材を途中で変えることには弊害があることも理解しておかなければいけません。
同じ内容でも労力と時間を再度消費する
各予備校のテキストや市販されている参考書は色々あるが、結局は同じテーマを扱っているのだからある程度知識がついていれば教材の変更もそこまで負担にならないのではないか、と考える方も中にはいらっしゃると思います。
しかし、同じテーマとはいえ、その制作にかかわった人間は別人であり、文章の読みやすさや言い回し、図や表の使い方など様々な要素の違いがあります。
この違いにより、既に学習した内容であっても初見で読む時と近い労力と時間を要してしまうのです。
位置情報による記憶を混乱させる
以前「試験に合格する暗記のコツ」シリーズでご紹介したように、人間の脳はイメージや位置情報での記憶に長けているため、意識していない人でも記憶する際に「位置情報」を利用していることがあります。
従って、それまでは「あのページの右上に図があったな」と記憶を掘り起こして問題が解けていた場合でも、教材が変わることで「これどっちかで見た記憶があるけど、どっちのテキストだっけ」という記憶の混線が起きる可能性があります。
これは、下手をするとそれまでの努力を台無しにしてしまうことに繋がるのです。
また、限られた時間の中でやるべきことを増やす行為は、全てが中途半端になるということにも繋がります。
そして、それは不合格にも直結するということは容易に想像できます。
絶対に教材を変えないほうがよい、という事ではありませんが教材の変更にはこれらの弊害があるということを理解しておく必要はあります。
例えば、予備校を変える際には教材がまるまると変わってしまいますので注意が必要です。
それまで、自分が使っていたものの位置づけや使い分けに注意をしましょう。
条文の扱い方
落ちる人:テキストや解説で満足する
試験に合格するためには条文を暗記する必要はない。
確かにこれは、その通りです。条文を一言一句丸暗記する必要はありません。
ただ、「テキストでの説明や問題集の解答解説は分かり易くかみ砕かれているため、わざわざ条文を確認する必要はない」となってしまってはいけません。
下記では、条文を大切にすべき理由について考えてみます。
条文を味方にすることが合格の鍵
弁理士試験の合格率の低さから、条文以外の細かい「論点」や「判例」も幅広くカバーしないと合格できない、とイメージされている方もいらっしゃるかもしれませんが実際はそうではありません。
あくまで、合否に大きく影響するのは条文に関する知識をしっかり習得できているかいないかです。
そもそも、「論点」も「判例」における争点も出発点は条文です。
最終的には、ある事実に対して、いずれかの条文が適用されるのか?
という判断を自分でできる能力を養うことが目的です。
基本となる条文に積極的に触れて敵ではなく味方にしましょう。
論文式試験に合格するためにも条文の知識・体系的理解が大切
もしかすると、試験当日条文が貸与されるのになぜ?
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに条文の文言が確認したければできるのですが、試験には制限時間がありますから、そもそも探すことや内容を確認することに時間をかけている暇はありません。
また、条文に書いていないため問題になるケースでは、存在しない条文を探してしまうという最悪の展開も考えられます。
論文式試験は条文を使って事例問題等を解く力、つまり条文を現実的な問題に当てはめ使いこなす力が求められているのです。
本番で頼りになるのは、それまでに培った自分の知識とその場で考える思考力、そして主張の根拠を支える条文に当てをつけ引用する力です。
条文を読み込んでおくと、本番精神的な安心も生まれます。
「あれだけ読み込んできたのだから、条文集さえあれば大丈夫」
そう思えれば、不安な気持ちに打ち勝ち自分の力もしっかり発揮できるでしょう。
最後に、弁理士試験は他の資格試験と違い30代、40代の方が最も多く受験をしています。これが意味することは、他の資格試験でよくみられる「学生に比べて勉強時間が確保できない」という競争環境ではないということです。
多くの方が働きながら限られた時間の中で勉強をしていますから、「差」がつく部分は細かい論点ではなく、あくまで基本知識がしっかりとついているか、いないかなのです。